うん、えっと大奥の歪みの話。とはいっても大体どうしようもない視点からのものなんで、「じゃあ解決策は?」と言われたら「革命するしかない」と答えなければならないかな、とかそういった類のところからの話。下準備としてウテナ全話見てたら大体わかると思うよ。まずは構造的欠陥話して、次に物語における関係性の不平等さを話して、最後にちょろっと感想を書こうと思う。突っ込みどころ満載だから突っ込みたいなら突っ込もうね。
まず大奥の構造的欠陥から。とはいってもこの「構造」というのは作品内の根底に流れる思想的構造の批判なので直結して作者自身の思想批判になってしまう恐れがある。正直私は川上氏の作品はホライゾンが初めてで終わクロもちょっとしか読んでないから個人的にそこまで言及する気はないし、彼がそれをわざとそうしているというのもあるかもしれないから、それを考慮してほしいと思う。要するに笑っていいよということと、「だったら読むな」ということを止めて欲しいってことです。
それでは最初に「ホモソーシャル」の話をしましょう。
「ホモソーシャルとは、イヴ・セジウィックに提唱された、異性愛男性の友情・同胞愛によって支えられた連帯関係を指す、「ホモフォビア」と「ミソジニー」から 成る概念である。セジウィックによれば、古代ギリシアから近代に至るまで西洋はホモソーシャルな社会であったが、ホモソーシャルはホモセクシャル(同性愛)と断絶したものでなく、連続したものであったという。ホモソーシャルな社会は潜在的に同性愛的であった。彼女は、男性が異性愛関係をもつのは男同士の究極的な絆を結ぶためであり、女性は男同士の絆を維持するための媒介であるという。ホモソーシャルな社会では、女性は男同士が絆を結ぶための手段になって いるのである。これは、レヴィ=ストロースの「女性の交換」論、すなわち、女性は婚姻の相手としてではなく、男同士の絆をゆるぎないものにするために交換される物であるという考えを受けたものである。この女性の交換から、「ホモフォビア」=同性愛嫌悪と「ミソジニー」=女性嫌悪が生まれる。女性を介しない 直接的な関係(=同性愛)を避け、同時に女性を単なる道具に貶める(=女性嫌悪)からだ。」(引用:http://kyotoconservative.blogspot.jp/2011/12/blog-post_23.html)
詳しくない人に説明できるほど頭は良くない方なので引用させていただきました。ホモソーシャルは簡単にいうと男の男の為の絆だけの閉鎖的社会ってことだよ。そこに女性は介入できない。出来ることは物質として人格を考慮されず交換されることだけ。「で、いったいなんなんだよ、大奥と関係ないじゃん」ってなった人もいるだろうし、「大奥は女の子が物質として扱われる場所ってこと?」って思った人もいるかもしれない。でもそうじゃないんです。この「大奥」という関係性の中で物質として扱われているのは寧ろ「男」であるトーリの方だから。
「大奥」とはつまり、女性版のホモソーシャル社会と同じと言えます。何故なら浅間ミトホライゾン、あと賢姉は、「トーリ」を交換することによってその絆を深めているからです。「大奥」の走りは賢姉の提案です。そしてそれを決定したのは最終的にホライゾンです。その理由は一様に「自分達の今までの関係性を壊したくないから」です。まぁ枝葉はありますが根幹はこれです。トーリを共有することでそれが破壊されることが避けられるならそうしようと、最低限ホライゾンはそう考えていたように思えます。そしてこれは確かに「婚姻の相手としてではなく、男同士の絆をゆるぎないものにするために交換される」行為そのものであると言えるでしょう。ここにトーリの同意があるとはいえ、否、トーリの同意があるからこそその歪さが垣間見えます。しかし、そこには一つの疑問が生まれます。じゃあ彼女たちは自身の欲望の主体であるの?という疑問です。このホモソーシャルが成り立つには社会を構築する「男性」に「性的主体性の自覚」が備わっていなければなりません。何故ならその社会で女性が交換されるのは、女性が「性的客体」であるからです。客体であるから物質として交換され得る存在になります。だけども浅間ミトは「トーリに声を掛けられた」から「大奥」に入りましたね?あれ?これは浅間ミトが客体であって主体でないことの証拠だからその論は通じないんじゃない???そう思いたいですが、でもそうじゃない。
ここで「お姫様‐王子様制度」が出てきます。ウテナを観た人には理解できるアレですアレ。
この「お姫様‐王子様制度」はパッと見、王子様(男)がお姫様(女)を所有しその人格を考えず好き勝手出来る男の為の悪しき構造の発露だと思われがちですが、しかしそれにはもう一つの側面があります。その側面とは「女性は自身の欲望の全責任を男性に負わせることが出来る」というものです。つまり女性は自身の欲望について、相手がそれを要求したからということを理由に、それに伴う責任について問われることは無い。これは今の浅間ミトと同じです。彼女達はトーリを「王子様」に仕立て上げることで自身の欲望の責任を全てトーリに押し付けています。それも無自覚に。これが女性のホモソーシャル的組織である大奥を根底から支えるメソッドです。言い換えれば全ての原因がトーリにあるように見せかけてしまうトリック。
「お姫様‐王子様制度」そのものについての歪さはウテナ本編を見てもらうとして、この負のスパイラルを更に負の根底へ推し進めてしまう最後のキーは、Ⅵ中で大奥のそもそもの形成理由として出てきた「全てはトーリの弱さに帰結する」というものです。
今まで述べてきた構造は知覚が難しいものばかりです。問題意識やそれなりの知識を持っていなければ、「なんとなく気持ち悪い」で済ませてしまう。ともすればそのような知識を備えていたとしてもその違和に言葉を与えることは難しい。しかし言い得なくても違和感自体は残ります。不満がもやりと浮かんでゆく。そこに登場したのが、トーリの弱さを原因に大奥を形成したというホラ子の言葉でした。すると後に戻れなくなった違和感や不満はそこに原因を求めます。つまり「トーリがもし強かったなら、このようなことは起こらなかった」ということになるんです。しかしトーリの「弱さ」はトーリのキャラクター性の根本にあるのだからどうすることも出来ない。そこで始まるのは「トーリ」というキャラクター自体の存在理由の批判です。例えば「トーリは物語的機能しか備えていないキャラクターである」だの、「トーリは最早主人公でない」だのといったものです。正直一度でもそういうことを思ったことや言ったことがある人は軽蔑に値いしますが、まぁここではそういうの言っても仕方ない。要するに「全部トーリのせい」ってなってしまうんですよ下手すると。しかしそうならなくとも、「大奥」という構造の中で、トーリは「交換物」ですから都合の良い方向にしか動けない。ま、それが良いならいいですが、私は嫌だね。とかそういう話です。
次に物語における関係性の不平等さ、に行きましょう。
これにはあるツイートが関連してきます。えっとそれに基づいて話そうと思うので引用させていただきますね。
境ホラでは恋愛の価値が低く、恋以外にも、主従等々の関係でセックスに至る感情や関係があることがⅣ中の鈴さんと佐助の会話や賢姉様の言動を筆頭に作中で示されています。境ホラのセックスは関係の至上行為であって、恋の至上行為ではないのです。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
このことから、境ホラでは主従関係や家族関係、仲間関係を確かめる関係の至上行為としてのセックスが認められます。また、関係とは一方通行ではなく、お互いが育むものとも言われてるので、片方の感情はその相手も持っているものと考えられます。(これは天幕会議で証明されました)
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
しかし、関係性のルールによって、トーリはホライゾン以外に好きと言ってはいけません。これは皆を繋ぐ関係差で、ホライゾンが恋の関係を担当しているからです。もしも恋の意味で他の人に好きと言えば、ホライゾンに対しての浮気となります。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
トーリが唯一告白として使えるのは「責任とる」という台詞です。他の男子が嫁を取るときに必ず用いていることから、これは境ホラにおける告白の共通最上位となる台詞だと思われます。言い換えすると「嫁にしたい」という意味になると思われ。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
トーリの感情表現は、Ⅳでホライゾンの共に行こうという宣言が先にあり、Ⅴで布陣を自分から指示することで下地を作り、身体測定の際に自ら明確にしました。この責任宣言は公的なものでしたが、ウエルカム宣言によって私的に捉えてもいいとなったからです。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
責任を取るということは嫁に来いということと同義です。そして、関係はお互いが育むものですので、トーリにとって憎からぬ感情を持っている人は、トーリの方でもそう思っているので嫁に来いということになります。そこで浅間さん達が自分達の関係を自覚しています。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
ただ、トーリはルール上、好きと言えないので、浅間さん達には自分達の感情が勘違いかどうかが分かりません。しかしⅥ上の天幕会議で、昔からトーリはちゃんと関係を育んでいたことが知らされます。ママンと賢姉様の言う通り、好きでもない相手にプレゼントはしませんしね。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
Ⅵ中では、関係を持つ者同士が、青雷亭でそれを確認し合いました。ホライゾンとトーリは一心同体、二人で一人と言われる通り、天幕のときにも示されましたが、お互いの代理人でもあるので、彼女が認めることはトーリも認めています。肉体関係も、トーリは認めてるということになります。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013
感情の相互理解は出来て、お互いの立ち位置も明確になったので、ここから先はそれぞれの関係ごとに行為や時間を積んでいくことになるのでは、と推測しています。…と長々考察でした。ミトツさんと浅間さんごとのも書いたけど、それはまた別で…。
— kansaiyaki (@kansaiyaki) July 12, 2013